『女王陛下のお気に入り』(The Favourite)みて参りました〜!
「イギリス王室版・大奥」と呼ばれてましたが、なるほどのドロドロ劇…!
でもその昼ドラ的ドキドキ以上に、揺れ動く女王の姿とあまりに独特すぎる映像、そしてラストシーンに観入ってしまう濃厚な2時間を過ごしてきました。ああ濃かった(ぐったり)
以下、ネタバレ感想です。
あらすじ
舞台は18世紀初頭・フランスとの戦争下のイギリス。しかしそのトップであるアン女王(オリヴィア・コールマン)は政治に興味がなく、幼馴染で側近のサラ(レイチェル・ワイズ)に全てを任せている状況。
そんな王室にある日、サラの従姉妹であり没落した貴族の娘・アビゲイル(エマ・ストーン)が仕事を求めやってくる。
女中として下働きから始めたアビゲイル。しかしある夜アン女王とサラが側近以上の関係であるという決して知られてはいけない秘密を知ったことにより、3人の関係性は変化していき…
多くを失った女王と決して揺らぐことのないと信じきっていたサラ、そして密かに元の貴族の地位へ返り咲くチャンスを狙うアビゲイル。「女王のお気に入り」を巡っての女同士のバトルが始まる…!!
ここまで女王らしさゼロの女王を観たことがない
あらすじの通り18世紀初頭のイギリス女王・アンを巡ってのお話、つまり実話を元にしているのは確かなのですが、なんだか違和感しかない!
というのもこのアン女王、全くもって女王らしさがない女王陛下なのです。
物語冒頭、戦争中にも関わらず愛するサラに宮殿をプレゼントしようとして「こんなものにお金かけるな!」と注意されても「え、戦争まだやってたの?」と素で口にしてしまう程に国のことを何もわかっていない。
何よりも、劇中描かれるのがアン女王・サラ・アビゲイルの3人ばかりで、王室を描いた映画で必ず見るような「女王の周りには常に世話係がいっぱい!」「着替えも全部人任せ!」という描写がほっッッとんどないのです。
余りにも3人しか映らないもんだから、これ架空の小国の女王なのかな?とか3人で暮らしてるんじゃないかとかいう錯覚に陥りました。
政治のこと、国民のこと。そういうものから離れて、自分の身近なものだけに閉じこもっている女王。国の戦争中にサラとアビゲイルへの感情だけで生きている女王。
国のトップが国民のことを考えず、身内の良し悪しで物事を済ませてしまうというのは今も昔も変わらないのかもしれない。そういう皮肉みたいなものも感じます。
17匹のウサギという象徴
女王らしくない女王、閉じた女王ということを言いましたが、そんな閉じた状態を作っているものこそ「17匹のウサギ」に象徴される女王の大きすぎる心の傷。
女王は過去に17人の子供を流産・死別で失っており、さらに夫にも先立たれてしまうというとんでもなく壮絶な過去をもっています。17人。想像もできません。さらに国を背負う立場として後継を作れなかったという事実は自分の存在価値すら揺らぐものであったのではないかと思います。
時折感情的になる彼女の振る舞いは、ただのわがまま・自分勝手という言葉では収まらない、壊れてしまった心を見せつけられているような気持ちになりました。オリビア・コールマン、とんでもねえっす。
そしてそんな心の傷の象徴であるウサギたちをどう扱うか、という点がアン女王にとってのサラとアビゲイルの差異を生み出すんですよね。
ズバズバ言っちゃうわよ系女子で「ウサギなんて可愛くないわよ」と言い放つサラ。
一方ウサギに食いつき優しく抱きしめることであっという間に女王の心の傷に触れ距離を縮めるアビゲイル。
女王が一番求めていることは、自分を認め受け入れ必要としてくれること。だからこそ最大の傷を埋めてくれる存在=自分を受け入れてくれる存在であるアビゲイルを失えなくなってしまったのだなと。そこを突いてしまうアビゲイルのすごさよ。
どれだけ長く一緒にいようが、心身ともに許していようが簡単に揺らいでしまうんだなあ。
ラストシーン考察:「お気に入り」という不安定さ
そんなウサギちゃんが画面いっぱいに溢れる映像で終わりを迎えるこの映画。
ラストシーンは何を描いていたのでしょうか。
まず前述の通り、ウサギは女王にとっての心の傷であり感情の大きな部分を表す象徴。
そのウサギを足で踏み潰し満足そうにするアビゲイル。
そして踏まれたウサギの声で目を覚ましアビゲイルに今すぐ側に来て足を揉むように命じる、アビゲイルが横になってほしいと声をかけるも「勝手に話しかけるな!」と権威を持ち出す女王。
ここに見えるのは、今の関係の不安定さだと感じました。
女王は欲のない女(つまり何も求めず無償で自分に気持ちを捧げてくれる存在)であると思っていたアビゲイルに対し、疑いを持ち始めた兆し。
一方でサラを追放し自分が「お気に入り」になったこと、女王の心(ウサギ)すら支配できると思ったアビゲイルの自信が揺らぐ瞬間。
その状況を女王という権限を持ち出してしか支配できない女王自身。
とってもとっても不安定なんですよね。
「お気に入り」はお気に入りでしかない。次の瞬間にでも「やっぱいいや」と思われないという保証はない。
アンとアビゲイルは決して「最強の2人」にはなれないのだ。「The Favourite」のタイトルが強く強く印象に残ります。
1日経ってじわじわ笑えてきた
しかし色々と衝撃的だったこの映画の中でも、私が衝撃を受けたのは「コメディー部門」であること!
?????コメディー?????
どこが…??????
観ている最中も観終わった直後もドキドキしながらじっと見入ってしまったのでコメディーなんて嘘だろ!と思っていたのですが…あれ、よく考えたらあれもこれもあれもこれもやばくない?wwwwww
例えば男性陣のメイクの酷さよ。
時代を考えたら正しいのだろうけれど、あんなに露骨に白塗りで凄まじいボリュームのカツラ姿の映画はなかなか観たことがない。日本だったら実際に白塗りお歯黒麻呂眉のようなものでしょ…?そんな姿の役者陣が「男は美しくなきゃな〜」って言ってるようなもんでしょ?攻めすぎイィい!
それをニコラス・ホルトはじめイケメンの若者がやってるのがさらに面白い。
他にもサラに「解雇してやる!」と言われたアビゲイルが本を顔にガンガン打ち付けまくり鼻血が垂れるシーンだったり、その姿を女王の部屋の前で泣きながら見せる嘘みたいなシーンだったり、それを見た後の女王による「解雇しないわよ、だってあの子舌でしてくれるもん」という捨て台詞(?)からのサラの「きイィい〜!」って表情だったり。
思い出せば思い出すほどに怒涛なテンション芸なんですよ。あ、あとアビゲイルの野性味溢れた野外イチャイチャシーンとか、突如見せられた放送事故的な全裸カツラ男へのウキウキフルーツ投げ大会とか!笑
こう考えると本当にアカデミー賞ノミネートなのか疑問になって…きたぞw
まとめ:「こんなの見たことない」が詰まった映画だった!
前述の独特すぎるコメディ要素もそうなんですが、ヨルゴス・ランティモス監督の作品自体初めてだったこともあり、とにかく「こんなの知らない…」という感情を常に抱いてドギマギしてしまう2時間を過ごした気がします。
断続的に続くBGMや次々切り替わるシーンや、魚眼レンズによる映像。パートごとに別れたセリフの引用。絵画のようなシーンの数々。
特に人物の顔をアップで映し続ける技法には度肝を抜かれました。(くそふざけた動きの)ダンスをするサラを見つめる女王の表情のアップはすごかった…。
他の誰のマネでもない映画。
異質すぎるこの映画が、間も無く決定するアカデミー賞で一体どの章を受賞するのか楽しみでなりません。
映画『女王陛下のお気に入り』 (オリジナル・サウンドトラック)
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