観てきました。
アカデミー賞作品賞、助演男優賞、脚色賞受賞の話題作『ムーンライト』。
しかし
観終わった後、ぽかーんとしました。
私は「今何を見たんだろうか?」と。
この作品は何が言いたかったんだろうと。
あれ?wって。
おそらく私と同じような、あの『ラ・ラ・ランド』を超えたアカデミー賞作品と聞いて「スゲーもんが見れるぜ!」「絶対面白いぜ!」と意気揚々と観に行った多くの人たちが感じるんじゃないかなと思うわけです。
そんなポカーンな中で、なぜポカーンとしか感じられなかったのか、自分なりにまとめてみようと思います。
『ムーンライト』あらすじ
マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らす少年シャロン(アレックス・R・ヒバート)。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)とその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが……。
『ムーンライト』は「つまらない」?
この映画は一貫して主人公シャロンの人生を追ったものになっています。
シャロンには「リトル」「シャロン」「ブラック」の3つの名があり、その名に合わせて少年期・青年期・大人という3段階でストーリーが進んで行く構成。
私が前情報として知っていたのは、「いじめ」「同性愛」「虐待」等を含んだ「壮絶な環境で生きる黒人少年の物語」というもの。
アカデミー賞受賞と聞き、上記のような設定を聞き、エンタメになれたエンタメ脳が何を期待してしまうかというと「いかにしてその苦難を乗り越え感動させてくれるのか」ということ。
そして否応無しに「面白い!」と感じさせてくれるであろうことです。
だけど見終わってみると確かに「壮絶な環境で生きる少年の物語」なんだけど、それってあまりイメージにあまり残らない。
ましてや見終わった後“大きな感動に包まれる!”ことも、“逆境の中で生きる少年に心打たれる!”こともなく、はっきり言うと「面白くない」とこぼしちゃうんじゃないかというくらい、平坦な形をした映画でした。
アカデミー賞と言われなければ、評価の仕方がわからないような戸惑いすら感じる。
でも、その「平坦さ」をイコールつまらないと言っていいのかと言うと疑問が残るのです。
だって。この映画が平坦なのは、世界を感動で包みたいからでも説教をしたいからでもないからなんだもん。
私たちが「壮絶な」とか言っちゃう世界が、彼らの世界なんだもん。
フィクションでありながら、シャロンというある黒人男性を見つめたドキュメンタリーであって、そのシャロンが親子関係や地域学校でうまくいかないという要素も同性愛者の要素も持ってる、というもの。それが『ムーンライト』なのです。
黒人社会という文化の違いが特に理解するまでの壁を作るのかもしれないけれど、観客はシャロンを他の映画のようにわかりやすく応援するでも共感するでもなく、「見つめる」ことしかできない不自由を感じてしまうんじゃないかと思う。
見終わった後に第一声「面白いってなんだろう」と言ってしまった私。
ここ最近もっぱら迫力のアクションがあって驚きのラスト5分どんでん返しがあって美人がエロくて、そんなものしか見てないエンタメ脳が「面白くなーい」って言っていいのかな。
そんなことを考えてしまいました。
誰が感動エンタメ娯楽作と言いましたかと。
言ってないわ!
自分だったら知人にオススメするかというと、映画好きでアカデミー賞に価値を見出す人だとか元から興味を持っていた人だとか以外には勧めづらい作品かなという感じです。
あ、でも一応これからみる人にこれだけは大声でお知らせします。
割とモロなシーンが出てくるので家族と観に行くのは絶対オススメしないぞ!(大事)
ということで以下ネタバレです。
この映画のモヤモヤについて自分なりに考えてみました。
「月あかりの下、黒人がブルーに見える」の意味
少年シャロンに対し、ホアンが教えたこの言葉。
めっちゃくちゃ印象に残りますよね、ポスターだってそんな感じだし。
そして「ああ、この後ブルーに映るセンセーショナルなシーンがあるんだわ」とか期待してしまいました。
でも結果として、言葉だけが残ってしまった感。
孤独な少年シャロンを気にかけ海に誘い(黒人は泳げないとかなのか、ケビンの言っていたような悲しいことは海で流すということなのか)生きる術を教えるホアンは良いことを言うんですよね。
「自分の人生は自分で決めろ。他人に決めさせるな」
でもこの明らかに後半に活きてきそうな台詞も結果として身になった感じがしなくて。
老婆が少年フアンにかけた「ブラックがブルーに見える」と言う言葉。
それは「ブラックでも何色にでもなれる、何者にでもなれる」と言う意味だったんじゃないかと思うのです。
学生時代強いものに逆らえずにいたケビンは大人になり「新しい世界」に住んでいる。
それは歳をとったからじゃなくて料理という好きなものを見つけられたから。
(あの映画の中で白人が出てきたのって、ケビンの店だけじゃなかったかな。)
「もうストリートには戻りたくない」と口にするように、彼はもう違う色をしている。
一方でシャロンは「ブラック」のまま。
体は逞しくなるけど、あれって「あの世界で生きる黒人」らしくなっただけなんですよね。黒人という“制服”を着たようにすら見える。
より一層ブラックに見えるだけ。
この映画を見て「この話なんだったんだろう」と思う要員としてあるのは、この主人公の成長のなさなのかなと思うのです。
2時間あって、少年が問題を抱えていたら終わりには何か変化があることを期待してしまうものだけど、主人公シャロンは何も変わってなくって、それにすごくモヤモヤする。
厳しい環境の中でもフアン、テレサ、ケビンという救いに出会い、希望と言えるような人の繋がりを得られているのに、結局自分を苦しめた根元である「麻薬の売人」になっちゃうシャロン。
子供の時と同じように母親にせがまれれば受け入れる他ないシャロン。
なぜ善人アイテムを使わない!なぜスルーする!なぜ!
お前に自分の意思はないのかと…!あああああぁぁ!ってなるのです。
でも。だからこそ。
この映画が描くテーマがそこにあるんだろうなと思えます。
狭い世界の話なんですよね。そこから出られない、出る術を持たない人たち。
まるで全員茶髪の日本の女子大生みたいに、皆同じように金ネックレスをして歯をキラつかせて音の煩い車に乗ってっていう、テンプレみたいな型にハマった人たち。
麻薬の売人になりたかった訳ではないけど、少年院に入って売人の仕事を世話されて、そのまま続けているだけ。やめないだけ。やめる術を知らずに理由も持てずにいるだけ。きっとその生き方を強く否定されることすらないはず。
それに善悪があるとかじゃないけど、そういう世界があるよねって、それを切り取った映像なんだと感じました。
映画としては、フアンの言葉を思い出し自分らしさを見つけ飛び出し突然音楽とともに走りだしてもおかしくないし、イケイケになった体で女とセックスして違うなーとかやっぱりケビン好きだ!と愛に目覚めたっていいよ、そうなって盛り上がってもおかしくない設定だよ。
でもそうじゃないん。そうなったらもうただの娯楽なんですよね。
繰り返すけれど、私はそんなシャロンを応援するでも共感するでもなく、「見つめる」ことしかできないのです。
そこにいたシャロンを、今もどこかにいるであろうシャロンをただ見つめたのです。
だからこそ、ラストの二人の姿にわずかな前進の光を見つけて、この先見ることのない世界でその光が守られることを強く望むのです。
このメインビジュアル。
映画を見終わった後ならちゃんと見えました。彼の人生が。
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